16. 歩道橋に敬意を表し 

 
小さい頃、練習したものに、自転車や鉄棒などはよくある話。
私だって自転車も鉄棒も練習したし、最後まで祖母がずっと付き合ってくれた遠い遠い記憶がある。
つい最近と言えない所が、自分の年齢を物語っているのだが、そんな話は置いといて・・・。

その他にも北海道では当たり前のスキースケート
変わりどころと言えば、竹馬なんかもある。
家に帰ってきてからも祖母や友人たちと夕方まで家の前で練習したものだ。

ただ1つ、普通は練習しなくてよいものを私はどうしても練習しなければならなかった。
そのを乗り越えなければ、学校に行けないもの。
それは・・・何を隠そう、恐怖の歩道橋なのであった。

実は私、根っからの高所恐怖症なのである。
落っこちそうなベゼクリク千仏堂での私のスケッチ姿を見ているメンバーには信じがたい話であろう。
でも事実。高い所が怖かったのである。滑り台の階段でさえ怖かったのである。

だから練習した。小学校入学式前に、半べそをかきながら、何度も何度も歩道橋をわたった。
おかげ様で、そんな風に歩道橋や穴あき階段を克服してしまえば、もう高所はOK
大人になるほど恐怖心はなくなってきて、今では東京タワーも全然平気。

そんな私に、歩道橋はどこまでも恐怖の存在だと思い知らされる出来事が起こった。

あれは高校時代。もうすでに歩道橋なんてへっちゃらぴっぴの屁の河童。
友人と楽しい会話をしながら上ったり降りたり、意識すらしない代物となっていた頃だった。
友人と一緒なら普通に平気な歩道橋。いつもの通いなれた歩道橋。
あぁ、それなのに、それなのに・・・、事件は起こった。
それは・・・円形歩道橋という丸い丸い歩道橋だったのだ。

部活で帰りが遅くなり、1人で帰ることになったあの日。
外は暗く、私は降りる階段を1つ手前と間違えた。回る回った、歩道橋。
降りた途端、まるで狐につままれたように、私は道に迷ってしまった。
いつもの帰る道がわからない。降りた場所がわからない。ここはどこ!?私は誰!?
右へ行くのか、左へ行くのか、これぽっちもわからない。一瞬にして、固まる私。

結局、地元高校の制服を着ているにもかかわらず、その辺にいたおばさんに道を尋ねる羽目となった。
おばさんは一瞬「へっ?」と怪訝そうな顔をしながらも、半分笑って教えてくれた。

それからまた、歩道橋を渡るのが少しだけ怖くなった。
もしかしたら、歩道橋は、私が敬意を表し、見上げてなお崇めるべき建造物の一つなのか!?
私が一人で帰る日だけ、横断歩道まで迂回して帰っていたのを友人は誰も知らない・・・。


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