12. 歯医者パニック 前編
歯医者が好きだという人はまれだろう。
あの♪ウィ〜〜〜ン、ガリガリッ、キィ〜〜〜ン!という超音波のような音を聞いただけで
全身鳥肌蕁麻疹モードに陥ってしまう子供たちも多いはずだ。
事実、私は歯医者さんごっこが好きで自分が歯医者さんになったつもりでよく遊んでいたくせに、
成人になってからも歯医者さんでかちんこちんに固まってしまうタイプなのである。
しかし、どうしても行かねばならない日はやって来てしまった。
あれは…、数年前の寒い寒い冬の日だった。
(本当は夏だったかも知れないが、気分に真冬のように凍りついていたのだから冬ということにしておこう。)
本当に悪夢だった。
ぬぅ〜ん!ぬぼぉ〜っ!ずん・ずん・ずんっ!
知らず知らずに親不知(おやしらず)が顔を出していたのだ。
むむっ!?奥歯に怪しい気配がする。なンダ?何だ?何なんだ!?うぅ〜ん…。何かいる…。(-_-;)
気のせい、気のせい、と何度も自分自身に言い聞かせてみようと試みたが、だめだった。
そして、とうとう観念して歯科医に電話をかけることにした。
「もっ、もっ、もじもじ…、いえいえ…、もしもし…。あのぉ〜、ちょっと奥歯を見ていただきたくて、予約したいんですが。」
ここで、歯医者の受付のお姉さんが私の恐怖心を察し、
「予約はいっぱいでしばらく無理ですねぇ。」とか何とか言って断ってくれればそれで話は終わったはずなのに、
「本日の16:00ではいかがですか?」なぁ〜んてあっさりと受け付けてくれちゃったからしょうがない。
うぅ〜・・・当たり前といえば当たり前の話である。
覚悟を決し、時間よりも15分前に到着するように家を出て、「歯科○○○」に行った。
ここではあえて歯科医院の名前は伏せておくが、実は患者にとってはあまり好ましくない名前の歯科医だった。
さてさて、待合室で待つこと15分〜30分。
「大窪さぁ〜ん、中にどうぞ〜っ!」
何時間も待ったような気もするが、妙に明るい声で呼ばれるのが余計に怖い。
うぅ〜、きたぁ。キテシマッタァ〜!とうとうこの時が、この瞬間が、やってきてしまった!!!
(すでに私はかなり精神的にいっぱいいっぱいの大変な状態になっているのをお察しくだされ)
覚悟を決めて椅子に座ると、待ってましたとばかりにエプロンがつけられる。
うぉぉぉぉ〜っ!だずげでぐれぇ〜!まな板の鯉、椅子の上のモルモット。絶体絶命だ。(←1人でパニック)
もちろんベテランの先生だからと言って、こっちの気持ちを察してくれるわけでは決してない。
「はい、口あけて。奥歯ね。どれ。ふ〜ん。あ、親知らずだね。あぁ〜あ、もう顔出してるよ。とりあえずレントゲン撮って。」
汗でびっしょりの手のひらにハンカチを握り締めたまま、レントゲンを撮られる。
「どうか親知らずよ、このまま消えてくれぇ〜!」・・・と祈ってみるが、そんなことがあるわけはない。
手品師になる修行を積んでおけばよかったと思っても、もう遅い。
「あぁ〜、だめだねぇぇぇ〜。斜めに生えてきてるねぇ。早く抜いたほうがいいね。」
そしてその親知らずを抜かねばならぬという恐怖心を引きずったまま、その日は帰される。
後日、抜かねばならぬまま。まるで大手術をするかのように、抜歯の日程を決めるのだ。
そんなに仰々しいことまでして抜かねばならぬ親知らず…。
抜く日を翌週に決めて、とぼとぼと一人帰路についたのであった。
つづく・・・。
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